遺産分割と相続税は別物?民法と税法と相続の関係。

相続の対策は今や一般的な提案内容になってきました。

 

10年前までは相続を主としたセミナーや書籍は非常に少なかったのですが、相続税法の改正などにより非常に身近な存在になりました。

 

改正前までは「お金持ちに関係するもの」として相続は認識をされてきましたが、もはや相続は全ての人に関係する事柄であるという認識をされるようになりました。

 

各業界で相続対策の商品やサービスが増えて、日々相続の問題に取り組まれています。

 

しかし、相続は民法と税法の二つの側面から考えないといけないため対策漏れなどが目立っているのも事実です。

 

今回は、相続の二つの側面についてお伝えいたします。

 

あくまで一般論としての話で、具体的な事例などについては必ず弁護士や税理士など専門家に相談をするようにしましょう。

 

またわかりやすさを重視していますので多少言い回しが異なると感じることもあるかもしれませんが、ご容赦ください。

 

 

■相続とは?

そもそも相続とは何でしょうか?

 

「亡くなった人から財産をもらうこと」

 

このような回答をする方が多くいらっしゃいます。

 

ざっくり言うと正解ですが、もっと細かくいうと相続とは民法で定められた法律行為です。

 

民法で以下のように定められています。

 

(相続開始の原因)
第八百八十二条 相続は、死亡によって開始する。

 

民法では相続の定義がされているだけではなく、第5章全てが相続に関する内容となっています。

 

相続は法律でしっかりと内容が定められていることだという点をしっかりと抑えるようにしましょう。

 

■民法側

繰り返しになりますが、相続は民法の第5章で様々なことが決められています。

 

法定相続人は誰か?最低限の取り分はどのくらいか?遺言は?相続を放棄する場合は?などなど。

 

相続で生じる権利関係が書かれているのが民法ということになります。

 

■税法側

相続が話題になったのは相続税の基礎控除(相続税がかからない一定金額)が改定されたのが一つの理由です。

 

相続の問題=相続税の問題と思っている方も多いのはこのためではないかと思います。

 

相続税とは、「ある方が亡くなったことによって財産を引き継ぐことにより得る経済的なメリットに対して課税をする」という税金です。

 

基礎控除が改定されて相続税がかからない金額が縮小されたとはいえ4,000万〜5,000万円ほどの財産であれば税金がかからないため「いやいや、相続の問題は関係ない!」というのももっともです。

 

しかし、重要なのは先に述べた民法という観点からも考えないといけないという点です。

 

■大きな違いとは?

民法と税法という2つの側面から相続は考えないといけないという話をしました。

 

では、具体的にはどのような点について気をつけないといけないのでしょうか?

 

複数ありますが、ここでは3つほどご紹介をしたいと思います。

 

生前贈与

贈与とは「ただで自分の持っているものをあげる」ということです。

 

この生前贈与は民法と税法で大きな違いがあります。

 

民法では特定の人に財産を贈与をすると特別受益に該当する可能性があり、相続財産を分割するときに持戻して計算をする必要性が出てくる可能性があります。

 

例えば子供が3人いて、一人の子供にだけ金銭的な援助をした場合には相続で財産を分けるときにその援助分を相続財産に合算して分割をすることになります。

 

「先に300万ももらってるんだから、その分は相続財産の前払いとして差し引くよ」ということです。

 

一方、税法では持戻しは相続開始前の3年以内と限定をされています。

 

10年前にあげた300万円は課税対象にならないが、2年前にあげた300万円は課税対象になるということですね。

 

民法と税法でこれだけ見方が異なるので注意が必要です。

 

ちなみに民法の持戻しについては、持戻し免除の意思表示などもあるので事前に対策をすることがいかに重要かがわかりますね。

 

 

非相続財産

民法上は相続財産にならないけど、税法上は課税対象の財産になるというややこしいものもあります。

 

生命保険はその代表的な財産です。

 

生命保険金は、死亡保険金受取人の固有の財産であると民法上では規定がされています。

 

固有の財産ということはもともとその受取人の財産ということなので、民法上の分割対象の財産には原則的にははいりません。

 

では、税法ではどうでしょうか?

 

民法では相続財産ではないのですが、お金というメリットを受け取っているのも事実なので税法では「みなし相続財産」として相続税の課税対象としています。

 

つまり、本来は相続財産じゃないけど相続財産とみなして課税しますよということです。

 

この辺りも相続の対策を非常にややこしくしている例になります。

 

スケジュール

相続が発生すると、財産を分割する・相続税を納税するという手続きが必要になります。

 

民法の分割協議は締め切りがなく、揉めると何十年も協議をすることになります。

 

一方、税法は相続発生を知った翌日から10ヶ月と明確に納期限を定めています。

 

終わりがないということは揉めると永遠に揉め続ける可能性があるので対策を事前にしておく必要性があることがわかるのではないでしょうか?

 

■本当に何もしなくて大丈夫?

相続対策については多くの方が「お金持ちにしか関係がない問題」と考えていると前述をしました。

 

しかし、本当にそうでしょうか?

 

確かに相続税の基礎控除が改正になり相続税の対象者の割合が増えたと言っても全体の8%程度です。

 

相続税の問題はあまり関係がないという人が多いでしょう。

 

しかし、民法側の問題・分割の問題はどうでしょうか?

 

相続財産が家1軒でも話がまとまらなければずっと揉め続けてしまいます。

 

自分の家が本当に相続で揉めることがないのか・・・一度専門家に相談をしてみてはいかがでしょうか?

 

■専門家でも間違えるので注意!

こんなことを書くと専門家の方に怒られてしまうかもしれませんが、相続の問題は簡単ではありません。

 

法律も改正がされてどんどん変わっていきます。

 

専門家の方でも間違えてしまう可能性があるため弁護士に聞いて終わり、税理士に聞いて終わりではなく、ファイナンシャルプランナーや相続診断士などの専門家にも話を聞くようにしましょう。

 

話が食い違った場合には「あれ?」と疑問に思うことが大事です。

 

間違えてしまう専門家をせめるだけでは問題は解決しないのでご自身のためにも複数名に相談をしてみることをお勧めいたします。