昨今、マスコミでも多く取り上げられている相続。書店でも専用コーナーがあった時期もありました。
これは2015年に相続税法の改正があり基礎控除が大きく引き下げられたために注目度が増し、相続が様々なところで取り上げられたためです。
テレビ番組などでも大きく取り上げられたので見た方も多かったのではないでしょうか?
また各業界でも相続をビジネスチャンスとみなし、相続セミナーや相続対策のための提案がたくさん行われました。しかし、今では相続のためのセミナーなどは全く目新しい感じがしなくなってしまったというのが実情でしょう。
ただ注目の度合いに関係なく相続については知っておくべきです。
相続は人が亡くなる時に顕在化されてくるため、程度の差はあれ誰しもが知っておかなければならない知識になります。
今回は相続税の基礎控除を中心にご紹介をしていきたいと思います。
■基礎控除とは
基礎控除とは、相続税を計算する上で遺産総額から差し引いてよい控除額のことを言います。逆にいうとこの金額までは相続税がかかりませんという上限の金額のことを指します。
基礎控除額の計算式
基礎控除は非常に簡単な算式で計算することができます。
基礎控除=3,000万円+600万×法定相続人の数
法定相続人が3人の場合は、3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。
つまりこの金額までは相続税がかからないということです。
法定相続人とは?
基礎控除の計算式で登場した法定相続人とは何なんでしょうか?また相続人とは違うのでしょうか?
相続人という単語から財産を受け取る人だということはわかると思います。法定相続人と相続人をしっかり分けて理解をすることで色々なことが理解しやすくなります。
法定相続人とは、民法上において相続人になる権利を持っている人のことを言います。権利ですから実行することもできれは破棄することもできます。つまり相続人になるのかどうかを選ぶことができるということです。
相続人にならないことを選択することを相続放棄と言いますが、相続放棄をすると相続人ではなくなります。でも相続人になる権利を持っていたのは事実ですから法定相続人であることには変わりがないということになります。
放棄した場合の基礎控除の計算は?
さて、基礎控除は「基礎控除=3,000万円+600万×法定相続人の数」という算式から計算をすることができるとお伝えをしてきました。
では放棄をしてしまった場合にはどうなるのでしょうか?
先ほどの例でいうと法定相続人3人のうち一人が相続放棄をすると、基礎控除の計算をする時の法定相続人の数は3人から2人に変わるのでしょうか?
答えは3人から変わりません。
基礎控除の算式で求められているのは法定相続人の数であるため、放棄をしようが何をしようが相続人になる権利を持つ法定相続人の数は変わりがないためです。
非常にわかりにくところではありますが、しっかり理解をしましょう。
ではなぜこのような仕組みになっているのでしょうか?税金を取る国側からすると法定相続人の人数を減らした方が税金を多く取れるのでそちらの仕組みにしてしまいそうな感じがします。
詳しくは今回は説明をしませんが、法定相続人には順位があります。法定相続人が放棄をすると次の人にその権利が移動するという仕組みです。
この権利が移動するという点を逆手に取ることに寄って法定相続人の数が増えて基礎控除額が大きくなるということが起きてしまいます。
このような節税ができないように現状のような規定になっているのです。
■基礎控除の改正前と改正後。その変遷は?
2015年に基礎控除額が引き下げられて実質増税となり、世間が大騒ぎをしました。
この相続税の改正前は、「基礎控除額=5,000万+1,000万×法定相続人の数」です。
法定相続人の数を3人で改正前と改正後を比較をすると、改正前が8,000万円で改正後が4,800万円ですから40%の引き下げです。かなり大きなインパクトのある引き下げであることが理解できると思います。
ただ基礎控除の金額は歴史的にずっと増加の一途(減税)をたどっていました。過去から比べると戻ったという見方もできます。ちなみに昭和50年~昭和62年までは「基礎控除額=2,000万+400万×法定相続人の数」となっていました。昔の方がもっと基礎控除の金額が少なったのです。
■基礎控除の変更の何に大騒ぎ!
この基礎控除の改正で実質増税になったということはご理解いただけたかと思います。では実際にどの程度の割合の方が相続税の対象となったのでしょうか?改正前である平成24年どのデータによると課税割合は4.2%でした。これが改正後になると8.0%まで上昇しました。100人に4人から8人に変わったということです。
この割合を聞いて「大変だ!」と思う方はそう多くはないでしょう。やはり数千万円単位の資産がある方が対象であることには変わりがありません。
「そんなにお金は持っていないよ」と油断をしないようにしましょう。持ち家がある方、特に東京などの都市部で持ち家がある方は対象になる可能性がありますので注意が必要です。
■相続税評価額に注意!
ここまで基礎控除の算式、法定相続人と相続人、基礎控除の変更による影響についてご紹介をしてきました。ここで鋭い方だと疑問に思うかもしれませんが、「基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数」の3,000万円などはどのように計算をしているのでしょうか?
すべての財産が現預金であれば、簡単に計算をすることができますが、不動産や金融資産、骨とう品など様々な資産が存在しています。
特に不動産などは建物と土地でわかれていますし、どうやって価格を出すのだろうと思う方も多いと思います。
相続税の計算では相続税評価額という金額を使って計算をします。
国税庁の方でしっかり計算方法が指定をされているのです。先ほどの不動産の例でいえば、買った時の値段や今現在の売却価格などではなく、土地であれば路線価から、家屋であれば固定資産税評価額から算出をします。
評価の方法について詳しい話はまた改めて機会があればご紹介をしますが、自分で勝手に判断をして「基礎控除の範囲内だから大丈夫だろう」と思わないようにしましょう。特に非現金性の資産をお持ちの方は注意が必要です。
基礎控除以外の大きな節税
相続税は基礎控除以外に大きな控除や軽減策があります。詳しくは顧問税理士など専門家に相談が必要ですが、一般的な話としてご紹介をしてまいります。
小規模宅地の特定
宅地なので土地に関する特例です。持ち家は基本的には相続人の方が引き継いでそのまま住まれていくことが多い資産です。
そのため土地のみですが、相続税評価額を大きく下げる特例があります。
それが小規模宅地の特例で、正式には「小規模宅地等についての相続税の評価額の計算の特例」と言います。宅地の一定面積までを最大80%減額して評価をする制度です。
もちろん条件はいくつかありますが、3,000万の土地の評価が、80%減である600万になるというのですから非常に大きな節税効果のある特例となります。
資産税専門の税理士先生などはまずここを適用させることに最新の注意を払うと言われています。
配偶者の税額軽減
次に配偶者の税額軽減をご紹介します。
配偶者の方は、亡くなった方(被相続人)の財産形成に大きな貢献をしたとみられているため大きな税額軽減の制度があります。
具体的には引き継ぐ資産が、法定相続分または1億6,000万円までの大きい方の金額までは、相続税が一切かかりません。
大きな資産をお持ちの方でも無税で引き継ぎができるため非常に魅力的な制度ですが、安易に適用をすると2次相続の時に大きな税負担を強いられる可能性があります。
2次相続とは、資産を引き継いだ配偶者が亡くなり相続が発生するケースを言います。
場合によっては、相続税を支払ってでも配偶者ではなくその子供等に資産を相続させていた方が相続税の負担総額からするとよかった等の例もあるので事前にシミュレーションをする必要があります。
安易に飛びつかないようにしましょう。
生命保険の非課税枠
最後にご紹介するのが生命保険の非課税枠です。
生命保険は相続と非常に相性の良い商品で、一定の相続税の非課税枠が存在しています。
具体的には「500万円×法定相続人の数」までは非課税で保険金を受け取ることができます。
生命保険は民法上は相続財産に含まれないため、相続税の計算上はみなし相続財産として課税対象となりますが、上記の算式の範囲内であれば無税でお金を残してあげることができます。
この利点を活用して相続対策に活用をすることを検討しましょう。
最後に
いかがでしたか?
基礎控除についての理解を深めていただけたでしょうか?
あくまで基礎的な知識であるため実際には専門家である税理士の先生に相談をする必要があります。
しかし、税理士だからと言って誰でもかれでも相続税に詳しい訳ではありません。
税理士先生も専門の分野があります。
資産税・相続税に強い!という税理士先生に相談をするようにしましょう。
また基礎控除はあくまで相続税についてのお話です。
相続は民法と税法と両面から対策をしていかないといけないため税理士先生に相談してほっと一安心・・・としてはいけません。
しっかり民法の専門家である弁護士の先生にも相談をするようにしましょう。
いきなり士業の先生に相談はハードルが高いという方は、ファイナンシャル・プランナーや相続診断士の方に相談をすると良いでしょう。